大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)62号 判決

控訴人・附帯被控訴人

大阪市

主文

本件控訴及び各附帯控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、昭和五四年(行コ)第六二号事件につき「原判決中控訴人の敗訴部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を、昭和五五年(行コ)第一七号事件につき「本件各附帯控訴をいずれも棄却する。」との判決をそれぞれ求め、被控訴代理人は、昭和五四年(行コ)第六二号事件につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を、昭和五五年(行コ)第一七号事件につき「原判決を次のとおり変更する。控訴人は被控訴人木下浄、同玉石藤四郎に対し各金三〇〇万円、その余の被控訴人らに対し各金二五〇万円及び右各金員に対する昭和五二年六月一一日から各支払ずみまでいずれも年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決をそれぞれ求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  訂正

原判決七丁裏八行目の「訴外山本」を「訴外山本和男」と、一一丁裏一二行目の「この」を「(3) この」と、二二丁裏一二、一三行目の「労務を提供し、すべて」を「労務を提供すべきものとするのであるが、」と、二八丁表二行目及び八行目の各「一率」を「一律」と、三一丁裏八行目の「引き移し」を「引き写し」と、五〇丁裏九行目の「事務処理」を「事務」と、五二丁表二、三行目の「こと目的として」を「ことを目的として」と、同裏七行目の「各組合」を「組合」と、五六丁裏九、一〇行目の「教育長が決定すると主張した。」を「教育長が決定すると定められ、被控訴人らに対する本件研修命令は右教育長決裁に基いてなされたものであると主張した。」と、六九丁表一〇行目の「意図された」を「意図した」と、七〇丁表七、八行目の「研修することを認めて」を「研修することを必要と認めて」と、七六丁裏一一行目の「事務処理」を「事務」と、七七丁表八行目の「金員」を「金額」と、九七丁表五行目の「四三年末」を「四三年度末」と、同裏一二行目の「一率」を「一律」と、一〇四丁裏五行目の「紛叫」を「紛糾」とそれぞれ改める。

二  控訴人の主張

1  あいさつ状が差別文書であるか否かを判断するに当っては、あいさつ状の文言が現実の部落差別といかようなかかわりを持っているかを考えなければならないものであるが、なかんずく当時のいわゆる越境入学が部落差別を温存、助長するものとして重要な問題となっていたことから、市教委はその是正に努め、これに伴い同和教育推進校への教員の異動が緊急の課題となっていたところ、あいさつ状は、同和教育推進校への転勤を嫌う教員の意識に迎合し、同校への教員の配置替えを困難にする方向に影響を与えたものであるから、同和教育の推進を阻害する恐れのある差別文書である。

2  同和教育の推進は、各学校の教員の自主的な取組みから始まったものであり、かかる教員の自主的な取組みなくして同和教育の推進はあり得ないのである。したがって、市教委は、教員のかかる自主的な活動に対して予算の確保や増額を図る等側面からの支援をして来たに過ぎず、教員に対して勤務条件を犠牲にしてまで同和教育に参加することを要求した事実はない。しかるに、あいさつ状は、勤務条件改善の障害物が同和教育であるかのように述べて、教員の責務と課題意識を欠落させ、同和教育に対する自主的な取組みを阻害しているものであるから、差別文書である。

三  被控訴人らの主張

1  被控訴人らは、本件各処分により、学校教育年度途中である昭和四四年九月に突然授業担当を外され、じ来昭和五二年二月までの長期間に亘って教鞭をとる権利を奪われたものであるが、また、同和問題ないしは同和教育に関する考え方の変更を強要されて、思想、良心の自由をも侵害され、さらには、実質上「差別者」と断定されたことにより名誉をも侵害されたものであって、これらによる精神的苦痛は計り知れないものがあり、その慰藉料としては、被控訴人木下、同玉石につき各二五〇万円、その余の被控訴人らにつき各二〇〇万円が相当である。

2  本件事案の性質、内容及び審理期間が六年に及んでいることを考えると、弁護士費用は被控訴人一人当り五〇万円が相当である。

四  証拠(略)

理由

一  当裁判所も被控訴人らの請求はいずれも原判決認容の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断するものであって、その理由は、次に付加・訂正するほか、原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人は、本件各処分は被控訴人らの資質の向上を計るためのものであって、被控訴人らの権利義務に不利益をもたらすものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分ではなく、その取消を求める訴は不適法であり、右取消の訴の関連請求として追加された損害賠償請求の訴も不適法である旨主張するが、本件研修命令は原判決認定のとおり、小学校若しくは中学校の教員である被控訴人らに対し六年の長期に亘って授業担当を取上げて教育研究所での研修を命じたものであって、被控訴人らの勤務場所及び勤務内容に少なからぬ変更が生じたものであるから、その実質は転任処分の性格を有するものというべきであり、本件研修命令は抗告訴訟の対象となるものと解するのが相当である。従つてその取消を求める訴は適法であり、その関連請求として追加された損害賠償請求の訴も適法であるから、控訴人の右主張は採用できない。

2  控訴人は、被控訴人らは本件各処分に対し具体的研修に一切入らないという違法な態度を固持し重大な義務違反を犯したものであるから、被控訴人らの請求は信義則上失当である旨主張するが、原判決認定のとおり本件各処分自体違法なものであったのであるから、被控訴人らが具体的研修に入らない態度を固持したとしても(但し、被控訴人らが本件異動処分及び本件研修命令に基き、それぞれの異動先の学校に赴任し、または教育研究所に着任していることは、控訴人の自認するところである。)、そのことから直ちに、違法な本件各処分に基く損害賠償請求権の行使が信義則上制約されるものとは解されない。従って控訴人の右主張も採用できない。

3  原判決一二六丁裏一行目の「八二号証、」を削除し、同四行目の「六一号証、」の次に「弁論の全趣旨により原本の存在が認められ」を挿入し、同七行目の「(ただ」から同九行目の「ない)」までを削除し、同一三行目の「六九号証」を「六九号証、八二号証」と、一三〇丁表二行目の「同月八日」を「同年四月八日」と、一三一丁裏一二行目の「追求」を「追及」とそれぞれ改め、一三二丁裏一〇行目の「一ないし六、」の次に「九六号証、」を挿入し、同一三行目の「及び九六号証」を削除する。

4  同一三四丁表六行目の「節一、が」を「節一が、」と改め、一三五丁表七行目の「、八九号証及び乙五五号証」を削除し、同裏一行目及び一〇行目の各「追求」を「追及」と、同二行目の「申入れ書を」を「申入書が」と、同六行目の「金井」を「玉石」とそれぞれ改める。

5  同一三六丁表五行目の「また、」から同八行目までを削除し、同一〇行目の「前記証人森田及び同升田」を「前記証人升田及び原審証人森田長一郎」と、同裏六行目の「右各本人」を「右木下本人」と、一三七丁裏六行目の「追求」を「追及」と、一四〇丁表三行目の「右研修」を「以上のような指導」とそれぞれ改め、同一〇行目の「あった。」の次に「また、市教委は被控訴人岡野、同金井に対し、同月一日以降矢田中学校において部落差別の実態に学びながら同和教育に取り組んでもらう旨の研修命令をなした。(もっとも、矢田中学校は昭和四五年四月から矢田中学校と矢田南中学校とに分れ、前者は一般校、後者は同和教育推進校となったが、市教委は、その頃既に同和教育推進校での研修の効果が上らないことを知っていたので、同被控訴人らを矢田南中学校へ配置替えしなかった。)」を加え、同一一行目の「同和教育推進校に配転後の原告ら六名は、」を「市教委は右各同和教育推進校において被控訴人らに授業を担当させず(ただし、被控訴人玉石は市教委と現場の校長との連絡不充分から、同月一六日まで授業を担当した。)専ら前記趣旨の研修をさせていたが、被控訴人岡野、同金井を除くその余の被控訴人らは、」と改め、同裏一、二行目の「上っておらず、」の次に「被控訴人岡野、同金井についても矢田中学校の生徒及びその父母との間の信頼関係が失われ、同校での研修効果は上らず、」を、同七行目の「分けて」の次に「被控訴人らに対し」をそれぞれ挿入し、同一二行目の「の辞令を」を削除する。

6  同一四二丁裏五行目の「乙四号証並びに」及び同六行目の「、乙五四号証」をいずれも削除し、同一三行目の「認められ、」を「認められる。」と改め、同行の「また、」から同一四三丁表三行目まで及び同一四四丁表五行目から同九行目までをいずれも削除し、同一〇行目の「また、」の次に「前記乙六号証の二、原審証人森田、同升田の各証言、原審における被控訴本人木下、同玉石の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、」を、同裏八行目の「立っている」の次に「ことが認められる」をそれぞれ挿入する。

7  同一四五丁表三行目〔労判カード三三〇「判決要旨」一(2)6行目〕の「あって、」の次に「本件において一義的に」を、夫行〔同15行目〕の次に「なお、成立に争いのない乙一九ないし二一号証、三四号証、五二号証の二、原審証人森田、同升田の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、あいさつ状が配布された昭和四四年三月当時、大阪市内の小、中学校におけるいわゆる越境入学が部落差別に基因するものであるとしてその是正が図られつつあったこと、そしてこれに伴い同和教育推進校における教員の増員が緊急の課題となっていたことが認められるが、かかる状況を充分考慮しても、前記のとおり、あいさつ状が市教組東南支部の役員選挙の際にその立候補者のあいさつ状として配布されたものであることからすると、被控訴人木下が同和教育推進校への教員の配置替えを困難ならしめようとの意図をもってあいさつ状を配布したとは到底認め難いところであるし、また、あいさつ状の文言が、控訴人の主張するように、同和教育推進校への転勤を嫌う教員の意識に迎合し同和教育の推進を阻害する恐れのあるものと断定することは困難である。なお、あいさつ状には教員の労働条件を悪化せしめるいくつかの要因が掲げられ、このなかに同和教育の推進に関連するものもあげられてはいるが、あいさつ状は、労働条件の悪化を理由に同和教育の推進を放棄しようというものではなく、他の労働条件悪化の要因と同様、市教委に対してその改善を要求しようとするものであることは、その文言及び前認定のようなそれが配布された動機、目的からして明らかであって、控訴人の主張するように、あいさつ状の文言が教員の責務と課題意識を失わせ、同和教育に対する自主的な取組みを阻害するものであると断定することもできない。」をそれぞれ挿入し、同裏一行目から一四六丁表三行目までを削除する。

8  同一四七丁裏四行目の「態度が認められるのであって」から同六行目までを「態度に終始したことが認められる。」と、同一二行目の「判断した」を「判断したためである」と、一四八丁表一三行目の「前記升田及び同近藤」を「前記証人升田及び原審証人近藤博之」とそれぞれ改め、一五〇丁裏一一行目から一五一丁裏二行目までを削除し、一五二丁表七行目の「行ったもの」を「行ったものと」と、同一一行目の「認める」から同一二行目までを「認めさせることにあったものと認定するのが相当である。」とそれぞれ改める。

9  同一五三丁表五行目の「ものとして」を「ものであるから」と、同裏一〇行目の「認める」を「認めさせる」と、一五四丁表二行目の「というべき」から同三行目の「してからは」までを「であるとともに、」とそれぞれ改める。

二  そうすると、前記判断と同趣旨の原判決は相当であって、本件控訴及び各附帯控訴はいずれも理由がないから、民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用及び附帯控訴費用の各負担につき同法八九条、九三条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 林義一 裁判官 大出晃之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例